5、タペストリー事件

2415 Words
ある日、俺は用事と私用のためにマスターが営む喫茶店へ足を運ぶ。 「いらっしゃい!秀頼君じゃないか」 「おっす、マスター」 「中学生は成長が早いね。そろそろ僕の身長を超しそうだねー」 成長期に入り、身長が伸びてきた感じは凄いする。 明智秀頼は、顔や身体付きだけは色男だからな。 ゲームの彼は中身がダメダメで、すべてが台無しだ。 「入学式も見たよー。残念ながら咲夜は君と違うクラスだって落ち込んでたけど」 「こればっかりは俺らは干渉できないっすからね。…………ところでなんで咲夜が違うクラスで落ち込むんだ?店来れば会えるだろ?」 「はぁ……。君は姉貴の言う通りすけこましだよ」 「は?」 マスターがため息を付きながらコーヒーを作り始めた。 最近は注文しなくてもエスプレッソということがわかっている。 「娘から10年20年かけてもコーヒーを美味しいって言わせるって宣言されておいてさぁ……」 「ははっ、親戚っすからね。切っても切れない縁っす」 「君さ、刺されて死んでも知らないよ……」 「え?嘘!?俺、死にそう!?」 マスターから原作を予知した言葉を吐き出され心配してくる。 やっぱりクズゲスな悪役親友は死ぬのが役割なんだろうか……? 「このままの君なら、死ぬよね……」 俺を見てため息を吐きながら目の前にコーヒーが置かれる。 お礼を言ってそのままコーヒーを口に含む。 「うーん……。もっと防御力を鍛えるか」 「そういう問題じゃないよ!」 マスターから突っ込みを入れられて、「もういいや」と少し見放された感じになる。 「そういえばマスター、おばさんがこないだ結婚記念日で叔父さんと2人で京都行ってきたんだ」 「あー、そういえば君留守番するとか言ってたね」 「んで、おばさんからお土産。いつも俺にコーヒー奢ってくれる礼もあるって」 京都のお土産の紙袋を渡すとマスターも嬉しそうに「なんだなんだ?」と中を覗き込む。 「…………何これ?」 「変なタペストリー」 「1番嬉しくないし、反応に困るお土産だなこれ!」 「別に良いじゃん。これ3万したって言ってたよ。その辺に飾っとけば良いじゃん」 「たけぇ……、バカじゃないのあの人……。店の雰囲気合わないでしょ」 もはや粗大ゴミみたいな扱いをされるタペストリーであった……。 「秀頼君もタペストリーもらったの?」 「いや?あんことかゴマとか色んな味する八ツ橋」 「僕もそっちのが良かったよ!」 お土産にケチ付けるマスター。 それは俺じゃなくておばさんに言って欲しい。 「おばさんも可哀想に。3万の高級タペストリーが粗大ゴミ扱いされてさ……。娘にあげれば良いじゃん。喜ぶぞーきっと」 「娘だってもうなんでも与えれば喜ぶ年じゃないんだよ。秀頼君がもらえば良いじゃねーか」 「要らねーよ、そんな粗大ゴミ」 「君だって粗大ゴミ扱いしてるじゃないか!」 タペストリーの押し付け合いになる。 そんな不毛な争いの中、マスターが『じゃんけんで負けた方が貰おう』と提案。 結果、俺が負けた。 「要らねー」 「姉貴に言えよ」 タペストリーをどうしようか迷っていると、そこへ来客がやって来た。 というか、咲夜だった。 彼女は俺の存在を確認するとノコノコ近付いてきた。 「む?貴様、またここに入り浸ってたのか」 「相変わらずご挨拶だな。いらっしゃいませくらい言えんのか?」 「いらっしゃいませ」 「言えたよこの子!?」 はじめて店員みたいなことをサラッと言われて驚愕した。 大丈夫か? この咲夜、偽物かなんかじゃないか? 「おい、マスター!今度、友達が店来たいって言った!連れて来て良いか!?」 「え?咲夜に友達?……友達!?」 「なんであんたが驚くんだよ!?」 マスターが『この世の終わりみたいな顔』をしていた。 汗もダラダラかきはじめた。 「取り乱した。咲夜は今までこんな性格だからね。小学生の間はずっとボッチだったんだ」 「ボッチだぜー、友達1人でした」 「なんで自慢気……?逆に1人目の友達が気になるわ!」 確かに貴様とかキッズとか素で言う子は嫌われるよなぁ……。 というか性格も悪いし、内気なところあるし……。 咲夜の友達は大変だったと思う。 「ここに」 「何が?」 「ウチの友達は秀頼だけだった。秀頼が特別」 「……はぁ」 俺が友達? 友達みたいなことしてたのか? 普通に会話をしてただけだったけど友達扱いされていたのか……。 「暴言ばっかりだから嫌われてるんだと思ったよ……」 「それは……、個人的な感想だ」 「個人的な感想って言えばなんでも許されると思うなよ」 なんか都合の良い奴扱いの様な気がする……。 「わかった、良いよ。連れて来ると良い。何ちゃんと友達になったんだい?」 「理沙と円と絵美とタケルだ」 「俺の知人ばっかじゃねーか」 「秀頼のおかげで友達できた。ありがと」 「あ、あぁ……」 調子が狂うなぁ……。 「照れてる照れてる」 「うるせっ、仕事しろ」 「してますよー」 マスターがニヤニヤと俺を見てきて居心地が悪い。 だから客があんまり居ないんだ。 そうに違いない。 「ところで秀頼?それはなんだ?」 「それ?……あぁ、粗大ゴ……タペストリーだ」 「もはやタペストリーと認識してないじゃないか……」 無駄に大きいし、デザインも民芸品っぽくてなんかダサイ。 おばさんのお土産の意図が不明過ぎた。 「そうだ、咲夜!これいる?」 「押し付けたな……」 「貴様、なんだこれは!?趣味の悪いタペストリーだな」 「俺からのプレゼントだ。君に特別に差し上げよう」 「ありがとう!マスター、プレゼントを秀頼から授かったぞ!部屋に飾り付けてくるっ!」 ドタバタと喫茶店の2階へとはしゃぎながら消えていく咲夜。 俺とマスターが呆然として咲夜の背中を見送った。 「おばさん、まさか咲夜の好みに合わせて!?凄すぎるぜ、姉貴……」 「なんで君まで姉貴って言うのさ……。というか多分……」 「多分?」 「すけこましだねぇ……」 「どうしたんだ急に?」 「末永く娘と仲良くして欲しいって言ってんの!」 「?」 初対面時より、俺に優しくなっているマスター。 それだけ俺と仲良くなっているのかなと思う。 部屋から戻った咲夜は不自然なくらいニコニコだった。
Free reading for new users
Scan code to download app
Facebookexpand_more
  • author-avatar
    Writer
  • chap_listContents
  • likeADD