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愉悦に溺れる

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今までまともに恋愛が出来なかった沙和。その理由はセックスが気持ちよくないから。自分が不感症じゃないのか、それとも気持ちいいのは漫画やドラマだけの世界なのか。そう悩む日々だった。沙和には年下の幼なじみがいる。紫月という4つ年下の彼は沙和とは違い、恋愛に慣れてる男。彼氏と別れる度にその幼なじみとお酒を飲みながら愚痴る日々。その日も例外なくお酒を飲みながら家で愚痴っていたとき、沙和は紫月からある提案をされて…―――

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愉悦に溺れる
セックスは気持ちよくて幸せなこと そう信じて疑わなかったの だけど想像と現実は異なって…… 初めて処女喪失した時はあまりの痛さで行為に集中することなんて出来なかった "慣れれば気持ちよくなる" 性のことをおおっぴろげに友達に相談するのも躊躇われ、漫画や雑誌の情報をかき集めて得たその情報を信じて痛みを我慢して行為に応じていたときもあった だけど5回、10回、手では数えられないくらい行為を重ねても痛くて…… いつしか私にとってセックス=痛いものという認識になり 行為をする度に『早く終われ』と願うようになった 「っあ〜〜〜!!!あんっっっの糞男!!!!!」 ビール缶を片手に鬱憤を吐き出すために大声を出せば「うるさ…」横でタバコをふかしている男がわかりやすく顔を顰めた それを無視して言葉を続ける 「確かに痛がる私とするセックスなんてつまらないのわかるよ?面倒臭いのもわかるよ?寧ろ私なんて毎回面倒くさい女でごめんねって心ん中で何回も何十回も謝ってたよ!!!!」 「面倒臭いならさっさと振ればいいじゃん!!なのに!?なんでわざわざ彼女の私をキープしたまま他の女作るの!!?超意味わかんない!!!!!」 はー、はー…… 夜中とか気にせず吐き出したいことを大声で吐き出す 「なに?"また"浮気されちゃった?」 「またとか言わないでよ〜」 「沙和ちゃん、前回も浮気されて別れてなかったっけ?」 「……よくおぼえてらっしゃることで」 「だって沙和ちゃん、振られる度に俺をこの家に呼び出して愚痴吐いてるじゃん」 それはそうなんだけど ふー、っと未だに横で紫煙を吐きながら私を沙和ちゃんなんてちゃん付けで呼ぶ男は所謂幼馴染というやつで 私の4つ下で何故か昔からよく懐かれていた 沙和おねーちゃん、なんて可愛く読んでくれてた時期もあったのに気付けば沙和ちゃんと呼ばれ。 よくひょっこり家に顔を出しに来る4つ年下の紫月が可愛くて、そして物凄く聞き上手の紫月には他の友達には中々話しにくいこともすんなり話せて…… 気付けば26歳になった今はよく、失恋の度にこうして話を聞いてもらってるというね だって物凄く聞き上手なんだもん 本当にね?下手に私を庇うわけでもなく、相手の男を庇うわけでもなく… ただ聞いて欲しい時に無言で聞いてくれて、その時私が欲しい言葉を絶妙なタイミングでかけてくれる。 こういうときばかりは紫月が自分の4つ年下には思えないんだ 「はあぁ〜、また結婚から遠のいたわ…」 「……なんで結婚?話飛びすぎじゃない?」 「全然飛んでないよ〜。私今年26だよ、結婚考えてもおかしくない年なんですよ…」 紫月はまだ22だもんね 大学四年生、就職決めるのとかで忙しくなる年だろうけどまだまだ全然遊んでても許される年齢だ 「そういえば紫月って彼女いないの?」 「彼女いたらこうして沙和ちゃんの家で失恋の愚痴聞けないだろ」 まあ、確かに 紫月に彼女いるときは大体居酒屋に誘導されるし でも……そっか。今は彼女いないんだ 飲んでいたビール缶が空になって新しい酎ハイを冷蔵庫から取り出しながら、紫月の顔をポケーっと見つめてみる 明るいミルクティーベージュの色に染められた髪は染めてる割にあまり傷んでる感じはしない きめ細かい肌 笑う時に少し細められる目がなんだか年下とは思えない色気が垣間見える ぶっちゃけ、紫月って男の割には綺麗な顔してるんだよね こう、男!って感じではなくてなんていうの? 名前もなんだけど中性的な……、本当に綺麗な感じ だから昔からよくモテてたし彼女も耐えなかった 最近はなんか落ち着いたみたいだけど 「紫月さ〜、」 「なに?」 「セックス気持ちいいと思う?」 「ぶっ!!!!!」 「ちょっ…、汚っ」 「ゴホッゴホッ……誰のせい、」 勢いよく飲んでいたビールを吹き出すから慌ててティッシュを渡して、床に飛び散った液体を拭く 床を拭きながら私を険しい顔で見る紫月に軽く口先だけで謝る 「はぁ……、で?急になんつー質問ぶっ込んでくるかな」 「だって私よりも紫月のが経験豊富だろうから」 「まあ…、話を聞いてる限りそれは否定出来ないけど。だって沙和ちゃん、出来るならセックスはなるべくしたくない系女子じゃん?」 うん、したくないよ というかね、私にとってはセックスが気持ちいいなんて都市伝説の話にすら思うよ 男はともかく、女でセックスを気持ちよく感じられる人なんて実は居ないんじゃないかって…… そもそもセックスって子作りのために必要な行為であってさ?子供が要らないなら別にしなくてもいいと思うの なんで人はセックスで愛情を確認し合ったりするのか本当に謎 私には永遠に答えの分からないなぞなぞだ…… まあ、そのなぞなぞの話は置いといて。 「紫月はなんでセックスがしたいの?」 「そりゃあ……気持ちいいから?」 「どこが?どうして?ねえ、なんで男は気持ちよく感じられるの?」 「待て待て待て、一旦俺から離れて落ち着こう。沙和ちゃん表情変わらないけど実はめっちゃ酔ってる?」 酔ってるとか酔ってないとか今はどうでもいい それを言えば「どうでもよくはないだろ…」なんか凄い呆れ顔で見られた だけど今の私にはそれもまたどうでも良くて。 脳内によぎるのは過去の男に言われてきた心無い言葉たち 『お前とのセックス疲れるんだよな』 『毎回毎回痛そうな顔されたら流石に萎える』 『痛え痛え言うけどお前一切濡れねえから俺だっていたいんだからな!!?』 『マジ面倒くせぇ』 ………ああ、思い出すと泣けてきた 瞼の奥が一気に熱くなる 鼻の奥もツーンとして耐えろ私!堪えろ自分! そんな願いも虚しく 「っは?沙和ちゃん!!?」 「しづきぃぃぃ〜」 私の頬には無数の涙が零れた 突然泣き出した私に慌てふためく紫月に抱きつく ……普段は勿論こんなことしないし、なんならしたことないけど今日はもうなんか、色々爆発して堪えきれなかった 仕事も忙しくて、恋愛だって上手くいかなくて なんならここ最近遠回しに親に彼氏は?なんて聞かれて結婚意識してるのバレバレだし…… もうっ……本当に色々上手くいかなすぎて泣くことくらい許して欲しい 私よりもゴツゴツしてて、骨ばってる紫月の肩に顔を埋めて泣けばそろそろと、少し遠慮しがちな手つきで頭を撫でてくれた その手が凄く大きくて、温かくて、安心して…… 涙を拭うことすらせずにただ目を細めて私とは違う温もりを感じていれば 「……沙和ちゃん、さ」 なんだかいつもとは違う声色で私の名前を呼ぶ紫月に「グス……なに?」鼻をかみながら答えれば少し間をあけて 「俺とセックス、してみる?」 それはもう、予想外に予想外すぎる言葉に一瞬耳を疑った 俺とセックス、してみる? 俺とセックス…… セックス…… 「セックス!!?!?」 「声でかっ…」 今、なんて? パニックになる私と対照的に冷静な紫月 ……あれ?今のって私の聞き間違え? そう疑問に思ってしまうくらいには至って冷静で 「俺さ、思うんだよね」 そんな冷静な態度のまま話を続ける紫月に混乱しつつ耳を傾ける 「沙和ちゃんの今までの男って下手くそだったんじゃねえのって」 「下手くそ……」 下手くそか…… 下手くそ……、どうだったんだろ? っていうかセックスに上手いとか下手とかあるの? まずそこからなんですけど…… 「下手くそですか、」 「そ。あとは自分本位のセックスに酔いしれてる」 「じ、自分…?酔いしれ…?」 「沙和ちゃん。これは俺が常に思ってることなんだけど」 突然、私の目の前に人差し指を立てては真剣な顔で私を射抜くように見られる その瞳から、なんでか目が逸らせない 「セックスはね、2人で楽しむものだと思うんだ」 「……楽しむ……」 「そう。1人だけ気持ちよくなるセックスはセックスじゃなくて、ただ人の身体借りてしてるオナニーと変わらん」 「ぶっ!!!し、紫月の口から卑猥な単語が……」 「先に言い始めたのは沙和ちゃんだからね?」 そうだっけ? まあ確かにセックス、セックスって連呼しながらお酒を煽った記憶があるような〜ないような? 「自分もだけど、相手にも気持ちよくなってもらって。二人で楽しんで気持ちよくなるからセックスは楽しいんだよ」 「……師匠、私にはさっぱりわけが分かりません」 「……師匠ってなに?」 だって先輩じゃ私のが年上だからなんかおかしいじゃん…… なんて言う前に 「ま、だから。沙和ちゃんが気持ちいいって思って貰えるように頑張ってみるから俺とセックス、してみない?」 いつものおちゃらけた様子とは全然違う 真面目な表情で私の目を見て問いかける紫月に適当に返事をして流す、なんてことは出来なくて

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