第12話 雀は探す(セシリア視点)

1517 Words
 カイゼル公爵家の屋敷を飛び立った私は魔の森を目指す。  国境までの距離は、ここから二百キロメートルもある。  馬車なら十時間程だが、雀の私だとどうなんだろ?  思ったよりも速度が出る。  このペースなら四、五時間で国境まで行けるかな?  そう思った私だったが……  雀のこの身体では、絶対的なスタミナが足りなかった。  一時間程連続で飛ぶと、とてもじゃ無いけどそれ以上は無理。  聖女のスキルを使って回復を試みた。  【ヒール】  僅かに発動したが……全快には程遠い。  もう一度……【ハイヒール】  だが、雀のこの身体に内包する魔力はとても少なくなっていた。 (あ、魔力切れ)  ふらつく身体を道の側の木の枝に何とか掴まった。  魔力切れ状態は、体力切れ状態よりも酷い。  回復するまでは、動けない。  恐らく六時間は掛かっちゃう……  私の聖女スキル……忘れてはいない。  でも、今の魔力では発動は難しい……  どうなっちゃうんだろう……  小枝の上で体力と魔力の回復の為に目を閉じて休んでいた。 (カサカサッ)  葉っぱの擦れる音がした。  何だろう? と思い目を開けた。  そこには私から見れば大きな蛇が口を開き、二つに割れた舌をチョロチョロ覗かせて、今にも飲み込まれる瞬間だった。 「キャアア」と叫んだ。 周りに人が居ても「チュンチュン!」としか聞こえなかっただろうけど……  間一髪で、危機を逃れ飛び上がった。  魔物でもなんでもないその蛇は、全長も一メートル程しか無いとは思うけど、私から見れば十分大きい。  心臓がドキドキした。  私に飛びかかって来た勢いで、そのまま木から落ちて行った。  そこに今度は上空から大きな鳥が飛んでくる。  鷹だ。  その鋭い蹴爪で、落ちた蛇をがっちりと捕まえ、再び大空に舞い上がった。  怖い。  自然って、野生って、こんなに危険が溢れてるんだ。  今の鷹だってあの蛇が居なかったら、私を襲って来たかも知れない。  私に戦えるの?  一応聖魔法の攻撃魔法はすべて覚えてるけど、さっきの感じからしたら、恐らく初期魔法の【聖弾】を一回使える程度だろう。  その一撃で鷹を倒したりできるのかな?  いや、戦おうなんて思わない事の方が大事だ。  もっと注意深く生き延びなければ……レオン様に出会えるまで……  少しだけ体力も回復したので、街道沿いに進む事にした。  小さな村があった。  小川も流れていたので水を飲む。  すると、少しひらけた場所に米粒が落ちてるのを見つけた。  お腹もすいてたから、米粒を|啄《ついば》む。  その瞬間、籠のような物が私の上にかぶさった。 「焼き鳥ゲットー!!」  子供の声が無邪気に喜んだ。  私は罠にはまってしまった。  こんな所で、焼き鳥になって死んじゃうんだ……私、レオン様……会いたかったよ……  私を、捕まえた子供が、私の首をひねろうとした瞬間…… 「ガウゥ、ワオン」と野犬の鳴き声がした。 子供がびっくりして転げた。  私はまたしても間一髪で助かった。  子供が膝をすりむき、大声で泣くと野犬は少しひるんだ。  その声に近くに居た大人が気付き、野犬を追い払った。  五、六歳くらいの男の子が膝から血を流して泣き続ける。  私は可哀そうに思って【ヒール】を男の子に掛けてあげた。  傷口が塞がる。  男の子はキョトンとした顔をして泣き止んだ。  大人の人、多分お母さんかな? が「治療魔法だわ、まさかこの雀が?」と呟いた。  私はまた捕まったら堪らないので「チュン」と鳴いて飛び立った。 「雀さんありがとう」と子供の声がした。  ちょっとだけ嬉しかった。  食べられかけたけど……  また魔法を使っちゃったから脱力感が激しい。  失敗だったかな……  そこに旅の商人の馬車を発見した。  馬車の屋根の上に止まった。  どうやら魔の森の方角に向かっている。  この上なら怖い鷹や蛇も襲ってこないよね?  ちょっと安心して眠りについた。
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