「マーサ、次は何するの?」
「セシリア、お前は自分で何かを考えるという事はないのか?」
「だってぇ、私は贅沢出来てチヤホヤされてたらそれで満足だしぃ、難しい事考えたくないもん」
「今の王国程度で満足なのか? 世界にはまだ百以上の国があり、その数だけ王や皇帝、国家元首と呼ばれる者達がいる。今のセシリアの立場では数いる王の中の一人になれるだけだぞ? それで満足なのか?」
「ん-嫌だわ。私は特別な王様が良いな。王様の中の王様になりたいわ。他の国の王が私にひざまづいて貢物を持ってくるの。私の王配に各国の王子たちも並べたいわ」
「そうか、それなら次はそれを各国に触れ回すのだ。ハインツ王国に屈せよとな。そして明確に反旗を翻した国を潰すのだ」
「えーと……その潰すのはダンタリアン様がやってくれるの?」
「マーサと呼ばぬか、この鶏頭王女め」
「ごめんなさい」
「まぁ良い。戦争は兵を並べる事に意味がある。暗殺で例えば隣国の皇帝を倒したとして、それでは単純に皇帝が代替わりするだけで、この国に靡くわけでは無い。兵を並べて一般民衆の前で軍を撃破してこそ絶望を与える事が出来るのだ」
「良く解んないけど、取り敢えずマーサの言うとおりにするわ。こちらの兵はどうするの?」
「セシリアの王配だけで構わぬ。まだ結婚もしていないし大した役職に付いている者もいない今だからこそ価値がある。各王配候補に十人ずつの兵を揃えさせ、七百九十人の兵と馬だけでよい、後は私とセシリアの乗る馬車を一両用意させるのだ。セシリアは相手国に到着すると同時に開戦を宣言すれば、それで仕事は終わりだ。王配どもに馬車の前に騎馬で並ばせておけ。敵から攻められて一歩でも下がった者は首を跳ねればよい。その間に私が敵の本体を打ち破り王を倒そう。そうすれば民衆が勝手にセシリアの勝利を認める」
「そんなもんなの?」
「やって見れば分かる」
その言葉に従い王配候補を広間に集め、世界制覇を宣言する。
直ちに大陸を始めとした百二の国家へ通達を出した。
『我がハインツ王国に従属するか、国ごと潰さるかを選ばせてやる。従属する場合は、一月以内に国家元首自らがハインツ王国へ顔を出し。貢物を収めよ。一月以内に来なかった国家は全て宣戦布告と判断し攻め進める。恐れおののくがよい』
勿論まだ王位継承はして無いから、母である女王ミランダの名前で送った。
ダンタリアンの眷属たるカラスのくちばしに咥えられ世界中の国家元首に送られたその手紙を見て、破り捨てた国が五十か国。
笑い飛ばしたが一応しまい込んだ国が二十五か国。
ハインツ王国に一部でも隣接し、国境を接する国ではハインツ王国に匹敵する国力を持つ帝国の動きを見るまで、答えを保留した国が、六か国。
他の国も態度を明らかにせず、他力本願な決定に委ねている。
その様子は、ダンタリアンの眷属のカラスによって、筒抜けで見られている事も知らずに……
素直に王国に従おうと、王子を使者として送る決断をした国は僅か一か国であった。
使者として送ったカラスをその場で惨殺して、王国へ攻め込む決断をした帝国に対して、セシリア王女は早速、王配候補を引き連れて帝国へと乗り込む準備を整える。
帝国は三十万以上の兵士に招集をかけ、揃い次第、王国との開戦を決定したが、既にセシリアと王配たちによる進軍は始まっていた……