クロワ侯爵家から飛び立った私は、アーサーの実家であるカイゼ公爵家へと向かった。
カイゼル公爵家は私のお祖母様の弟君が起こされた家であり、アーサーは私の《《はとこ》》に当たる。
クロワ侯爵家よりもさらに広いカイゼル公爵家のリビングでは、アーサーとその父君がワインを傾けながら談笑をする姿があった。
「それでアーサーよ。お前はレオンハルトと仲が良かったと周りから見られていたが、奴の失脚によってお前迄もが被害を被ることなど無いであろうな?」
「まったくだよ、レオンがセシリアの王配に成れば俺にも近衛騎士団長程度の役職は簡単に手に入れれると思って親友を演じて来たのに、とんだ無駄になったよ」
「お前はこれからどうするつもりだ?」
「次の王配に指名される奴に取り入るしかないだろう。公爵家からでも王配候補を出せるのなら、俺がセシリアに取り入れば良いだけだからもっと簡単だが、侯爵家にしか参加権利が無いからしょうがない」
「その話だが、今日王宮の会議に参加したんだが、前回一度選ばれなかった侯爵家の人間だけでは、次期王配の決定に足らないのでは無いかと言う話が出ておる。伯爵家以上の嫡男も含めた男子を集めてもう一度盛大なお茶会を催そうと言う話が出たぞ」
「父上。それは本当ですか? 伯爵家以上と言う事であれば、公爵家でも構わないと言う事ですか?」
「血の濃さの問題があるので、現女王の兄弟家である三家の公爵家は外されるが、わがカイゼル公爵家は認められるであろうな。アーサーも弟のランスロットとトリスタンを連れて参加せよ」
「そうだな。俺自身はセシリア女王と結婚すれば側室も持てぬ退屈な人生になるのが面倒だから、そこまで真剣では無いが、ランスロットとトリスタンであれば、上手く潜り込めそうだ。あの二人のどちらかでも見染められれば、レオンが王配になるより更に俺に取っては有利な未来が開けるからな」
その会話を聞いたセシリアは絶望した。
「そんな……アーサーはレオン様の親友だと思ってたのに、自分の将来だけを考えて打算で親友のふりをしてただけだったの? 酷い。酷いよ……」
更にカイゼル公爵親子の会話は続いた。
「アーサー。レオンなのだが、止めは刺したのか?」
「いや、あんな能無しに俺の剣を振るう必要も無い。魔の森の中に放り捨てて来た。魔獣が溢れるあの森の中で武器も持たぬレオンが生きて行けるとも思わないが、仮に生き延びても何も出来ないさ」
「お前らしくないな。その甘さが不安材料になる事もあるのだぞ?」
「一応、今までは親友と思ってくれていたし、俺の誕生日には高価なプレゼントを毎年用意してくれてたからな。それくらいはサービスだ」
「まぁ良い。アーサーの言う通り今更あの無能には何もできないだろうしな」
魔の森……
北の国境沿いにある、魔獣の溢れる森だったわね。
あの広い森の中でレオン様と再び巡り会う事は出来るのでしょうか?
このひ弱な雀の姿で……
でも、他に選択肢はないわ。
行こう。
レオンハルト様の元へ。
私は、王都を飛び立ち必死で魔の森へとっ向って旅立った。
◇◆◇◆
父との話を終えて、風呂に入り自室に閉じこもったアーサーが昨日の夜の事を思い出す。
セシリア王女は何故急に変わった? 少なくとも昨日の昼までは、いつも通りのレオンハルトにベタ惚れの王女だった。
それが、パーティ衣装に着替えるためにレオンと別れ、パーティが始まった時にはこの状況だった。
何かがおかしい。
セシリア王女には、十分に注意を払うべきだな。
だが……女王陛下も昨日のセシリアの行為に何も仰らなかった。
女王陛下が納得している以上は、俺が考えても意味のない事か……